ドリーム小説
黒の神父服。十字の飾りの入ったマフラー。
映画から抜け出たような出で立ちで、ジョンはポケットから小瓶を取り出した。
「なに?あの水」
「聖水だろ」
画面の向こう側で小瓶を振り、聖書をめくると祈祷がはじまる。
『始めに言があった 言は神と共にあった 言は神であった』
僅かに雑音が混じっている。
「・・・どうしたんだろ」
「音あげてみろ」
法生の言葉に、麻衣が音量をあげる。
先ほどよりも大きく聞こえてくるジョンの、祈祷の中に混じる軋む音。耳障りな音は、ジョンにも聞こえている様子だった。
「・・・ラップ音じゃない?」
辺りを見渡しながらな祈祷を続けるジョンの――上、真っ先に気付いたと麻衣が弾けるように立ち上がった。
「おい、嬢ちゃん!?」
痛めた足につんのめる。
法生の手に抱き留められている合間に、脇を通り過ぎていった麻衣には悲鳴を上げた。
「麻衣! 危ない、駄目よ!! ――綾子さん、窓を開けて!!!」
その声に、綾子がすぐさま窓をあけた。
法正に肩をかりて、足早に駆け寄る。
「和弥!!二階の西の教室!」
やがて響く、大きな音。
法生達が駆けるのに一歩二歩と遅れながら、も二階へと急いだ。
【悪霊がいっぱい!? 8】
「・・・なんてこった」
大破した教室を前にして、法正にはそんな言葉しか出てこない。
崩れ落ちた天井。
床など見えたものじゃない光景を、懐中電灯の明かりを頼りにジョンが口を開く。
「麻衣さんが声かけてくれへんかったら、危なかったです――それに、すんでのところで何かが後ろからボクの背中押してくれはって」
「何か?」
「わからへんのです。振り向いた時にはもう、天井がおちとったんです」
ぽっきりと折れた柱をナルは見ている。
「・・・今夜は、引いたほうがいいかもしれないな」
帰っていいぞと言うナルの声に、心底安堵の表情を浮かべた麻衣の後ろで、綾子がげんなりした声をあげた。
「そーね、アタシも帰らせてもらうわ。命あってのモノダネよ」
「正直にビビッたって言えよ」
「ボクも、ご忠告に従って今日のとこは帰らせてもらいますです」
バラバラと皆が解散していく中、麻衣は未だ立っていると、壊れた柱を調査をしているらしいナルを振り返った。
「二人とも?」
「僕は調べ物があるからまだ残っておく」
「私も、少し用事があるから、後から帰るわ」
法正は首を巡らせた。
「だけど嬢ちゃん、その足で一人で帰るのは難しいんじゃねーのか?」
「いざとなったら迎えに来てもらうんで、大丈夫です」
そうか、と法生がいい、それならばと麻衣たちの足音が遠ざかっていくと、は声をかけた。
「和弥」
もぞもぞと、埃まみれのカラスが姿を見せるなり、くたりとしおれる。
「・・・ありがとう」
抱えると、伝わってくる温かな体温にはぎゅうっと抱きしめた。
「地盤沈下だな」
「そうね。ひび割れて砕け散ったガラス、亀裂の走った黒板。落ちる天井――だとしたら近くに井戸とか原因があってもいいものだけど」
「和弥なら分かるかも知れないが、とりあえずここら辺一体の地図と井戸を調べよう」
颯爽とナルが歩き出す。その背を遅ればせながら追いかけると、なんと、ナルが立ち止まった。
「・・・肩」
「は?」
「肩につかまれ。でなきゃ、後でリンに嫌味を言われるのは僕だからな」
(あら、ま)
半ば強引に掴まれた腕が肩に回される。
「素直じゃないねー、ナル」
「・・・うるさい」
□
「はぁ?ナルとが?」
「そうそう。どーも怪しいと思わないか?あの二人」
「そうでっしゃろか、普通やと思いますです」
ぞろぞろと連れたって歩く法生が、首だけで振り返る。
「なんっつーか、雰囲気がな。変なんだよ」
「ありえないって、会って数日だよ?」
「なんでそう言いきれるんだよ」
「……なんとなく」
言い切るわりに曖昧かよ。
生返事を打った法正にこそ、麻衣は怪しい目を向けた。
「大体、なんでぼーさんこそ、何で急にそんな事を言い出すわけ?」
「さぁ・・・?なんでだろ」
「なんじゃそりゃ」
――この学校だってそう。いろんなことがあったはずよ。
それは事故や死なんかも含めて、この場所で生活してきた生徒達の嬉しさだとか、
楽しさだとか、そう言うのも全部全部でね
何故だかあのときの彼女の顔が、ちくりと棘のように、どこかへ刺さったように感じたのだ。